疲れた夜に~よしもとばなな『王国』シリーズ
よしもとばなながライフワークとして取り組んだという作品『王国』シリーズ全4巻を読了。
よしもと作品は、いつも私を少し淋しいけれど、とてもあたたかで静かな、懐かしい場所に連れて行ってくれる。
そして弱った心に元気をチャージしてくれる。
だから、定期的に読みたくなってしまう作家の一人です。
好き嫌いが分かれる作品かと思いますが、好きな人はどっぷり物語の世界に浸れるんじゃないかな。
ファンタジーの中に、文明社会に対する痛烈な批判や生死への哲学的な示唆が気負いなく、自然なタッチで描かれていて、その部分がとても良かった。
物語は、人里離れた山中で祖母ーー様々な病気を治す薬草茶を作る特別な能力を持っているーーと二人きりで暮らしてきた少女、雫石(しずくいし)が山を降り、東京で一人暮らしを始めるところからスタートします。
山の中しか知らなかった雫石にとって、何もかもが目新しく、不慣れなものばかり。
孤独を抱えながらも、東京で自分の世界を築こうと奮闘していた時に出会ったのが盲目の青年、楓。
彼は目は見えないけれど、人の心や未来を見る特別な能力を持っていて、占い師として生計を立てています。
その彼のアシスタントとして働くことになる雫石。
楓の恋人、ゲイの片岡さん。
この三人の奇妙で、危うく、あたたかい関係を主軸に物語は展開します。
三巻目までは、雫石の視点で話が進み、彼女が新しい世界で傷つき、いろんな感情を味わいながらも、成長していく姿が丁寧に描かれています。
一方、最終巻『王国ーアナザーワールド』は、雫石の娘ノニの視点で物語が進みます。
いわゆる番外編という感じでしょうか。
三巻から二十年ほどが経ってからの世界が四巻には描かれています。
はじめは、私がイメージしていた雫石とノニの目に映る母親である雫石の姿があまりに違って戸惑いましたが、案外、人のイメージってそんなものかもしれないなぁ、と思ったり。
人間は多面的な存在だし、見え方もその人との関係性で変わるだろうし。
王国シリーズが完結してしまったことは淋しいけれど、今もどこかで彼らの生活は続いているんじゃないかな……そんな心地よい余韻の残る作品でした。
生きることはとても孤独で、でもとてつもなく愛おしいこと。
そんなメッセージを作品全体から感じました。
疲れた心にそっと寄り添ってくれる物語です。
王国―その2 痛み、失われたものの影、そして魔法― (新潮文庫)
- 作者: よしもとばなな
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/03/25
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